渡辺 典久 先生
最終学歴:日本歯科大学新潟歯学部
突然ですが、当院では「削って詰める・被せる」いわゆる一般的な虫歯治療や、「入れ歯やブリッジを入れる」などの従来の治療も真剣に行っています。歯科医師はとかく、インプラントや審美歯科などの先進的な治療ばかりに関心を注ぎ、安易に着手しては悦に入りがちですが、僕は基礎的な治療をしっかりできてこそ、先に進む資格があると考えます。一例を挙げると、我々歯科医師は、虫歯や歯周病という疾患を、日々の臨床で目にしない日はありません。虫歯に罹患した歯は削ることが必要な場合が多いですし、重度の歯周病に罹患した歯や、永久歯の萌出を明らかに阻害しているような乳歯は、抜歯しなければならないのです。それらの疾患を正確に診断し、確実に治療する事なしに、患者さんの利益は得られないのではないでしょうか。ですから、最近よく巷間で喧伝されているような「削らない!」「抜かない!」などという、幻想的な事を患者さんにお約束することは一切いたしません。
逆に、患者さんの同意を得ずして、治療を行うことを一切しないということを、お約束いたします。父権主義的・上意下達的な治療、つまり患者さんの意向を無視した、歯科医師主導の治療では、成功した時はいいでしょうが、万一、患者さんの意にそぐわない結果になったときには、労多くして益少なくなってしまうでしょう。説明と同意を徹底し、全ての治療には危険と利益があることを理解していただき、お互いに後悔のない治療を心がけたいものです。
ただし、一般的な治療をそつなくこなせるという、この時点で満足してしまっては歯科医師として片手落ちであると考えます。歯科疾患実態調査によると、日本人の虫歯の本数は、ここ20年でほとんど変化していないことをご存知でしょうか。これは、歯科医師が削って詰めるということを繰り返してきたことは、国民の口腔衛生の向上に全く寄与してこなかったことを示唆します。虫歯、歯周病共に、改良の余地はあれど、予防法・治療法がほぼ確立されています。また、国民はおしなべて、皆保険制度の恩恵を受け、欧米の先進国と比較して著しい低額で、どの医療機関の治療でも受けることができます。しかし、国民の虫歯は減少していないのです。中国の春秋時代の兵法家である孫子は、「知彼知己者、百戦不殆」(彼を知り己れを知れば、百戦して殆うからず)という言葉を残しました。疾患の原因はなにか、どうすれば予防できるのか、そのために自分になにができるのか。それらを知ることが出来れば、治療を繰り返すも歯を失うという、負のスパイラルからの脱却は近いでしょう。
それでも、どうしても解決できない問題もありましょうが、その時には、高度先進医療を用いて、全力で解決に当たります。これを行うには歯科医師の不断の努力が必要になってきますので、日々倦むことなく勉強していかなければなりませんし、歯科医師という職業に就いた以上、義務であると考えています。とはいえ、医学は万能ではありませんし、僕の能力にも限界があります。出来ないことは出来ません。傲慢になることなく、全力で日々の診療を行いたいと思います。